大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)33号 判決

控訴人

菊地康明外四名

右控訴人ら訴訟代理人

田代博之

外三〇名

被控訴人

静岡県教育委員会

右代表者委員長

増田善郎

右指定代理人

鈴木奎次

外四名

右訴訟代理人

堀家嘉郎

御宿和男

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取り消す。本件を静岡地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正及び付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

原判決六枚目裏四行目「砂丘項部」を「砂丘頂部」と、同五行目「堅穴式住居跡」を「竪穴式住居跡」とそれぞれ改め、原判決一三枚目表七行目を次のとおり改める。

「3 同4は、(二)(1)中、「伊場遺跡の東部地区(県の史跡指定地を含む。)において土器片や石器等の遺物が発見され、更に弥生時代後期の多数のピット群と土壙群が砂丘上に検出され、それらをとりまく三条の環濠が存在したこと。この濠内からは漆塗り短甲状木製品二点をはじめ、数百個に及ぶ土器群が発見され、短甲状木製品は我が国初例であり、この遺跡のもつ弥生時代後期の性格づけに重要な手がかりを残したこと。又、砂丘頂部には十数個分の竪穴式住居跡と多数のピット群(穀物貯蔵用)が検出されたこと。」、同(2)中、「東部地区に隣接する西部地区からは、貴重な遺構が多数発見され、なかでも、西部地区を東西に分断する古墳時代後期の幅一三メートルに及ぶ大溝は、古代国家成立前夜の社会情勢を考えさせる格好な資料となること。同大溝からは、多数の木簡が出土し、又、従来、中世に始まると考えられていた数点の絵馬が出土したこと。」は認めるが、その余は争う。前記の短甲状木製品の発見された溝、木簡の出土した大溝、絵馬の出土した地点は、いずれも静岡県指定史跡に指定されている別紙物件目録記載の各土地の区域外の土地である。」

(当審における主張)

一  控訴人ら

1原判決添付物件目録記載一、五及び八の各土地は日本国有鉄道の、その余の各土地は浜松市の所有する土地であり、その全体を伊場遺跡として、被控訴人は静岡県指定史跡に指定していたものであるが、被控訴人は昭和四八年一一月二七日、「この遺跡は、浜松市民永年の念願である国鉄高架化事業用地からどうしても除外できない事情にあるので、遺跡の調査、資料の整理・保管・公開、保存用地の確保・整備等の、この遺跡に対する保護顕彰の条件をつけ、指定を解除する。」旨の解除理由を付して、静岡県文化財保護条例(昭和三六年静岡県条例第二号、以下「県条例」という。)三〇条一、三項により同県指定史跡の指定を解除した。

2その指定の解除の理由は、国鉄浜松駅の高架化に伴う同駅前再開発・整備のために伊場遺跡(なお、静岡県指定史跡に指定された区域は伊場遺跡の東部地区の一部、三二四四平方メートルであるが、以下伊場遺跡の呼称は右指定区域外の区域をも含めて用いる。)に国鉄の電車区を移転するためであり、そのような場合が県条例三〇条一項所定の「指定史跡が指定史跡としての価値を失つた場合その他特殊の理由があるとき」に該当しないことは明らかであるから、指定の解除の要件を満たしておらず、したがつて右指定の解除処分は違法である。

3伊場遺跡については、現在までに一三次に及ぶ調査がなされ、指定の解除時においては第七次の調査が行われていたが、原審で主張したとおり、同遺跡の東部地区には三条の環濠が存在し、その濠内からは短甲状木製品二点をはじめ須恵器など数百個に及ぶ土器が発見され、その周辺には多数の竪穴式住居跡とピット群が検出され、また弥生時代の方形周溝墓も発掘された。西部地区からは大溝が検出され、その両岸には掘立式住居跡があり、大溝内からは一〇〇余点の木簡や古墳時代から平安時代に及ぶ土器が発見され、大溝の地層の編年的な層位と出土品との関連付けも比較的整然としており、遺構としての学術的・歴史的な価値は極めて高い。このように、伊場遺跡は東部・西部地区を合わせて複合遺跡として国の史跡指定に値いするほどのものであるのに、被控訴人が指定の解除をしたことは暴挙といわざるをえない。

4控訴人らは、原審で主張したほか、後記のように、伊場遺跡の学問的研究及び保存運動に深く係つている者であるから、本件処分の取消しを求めるにつき行政事件訴訟法九条にいわゆる法律上の利益を有し、したがつて本件訴訟について原告適格を有する。右にいう法律上の利益とは、「法律の保護する利益」をいうものと解すべきではなく、「法律の保護に値いする利益」をいうものと解すべきである。そうでないと、実体法規の存否及びその規定の仕方といつた偶然的な事情によつて国民の権利又は利益の救済の道が左右されることになり、極めて不合理な結果になるからである。そして、法律上の利益は、単に物質的・経済的な利益にとどまらず、精神的・文化的な利益をも含むものというべく、本件についていえば、さらに県条例及び文化財保護法の個別的な法文の規定の仕方だけでなく、史跡指定により控訴人らが享受していた利益の特質、その反面として指定の解除により生ずべき不利益の特質・程度、取消訴訟以外の救済手段の有無、紛争の成熟性、控訴人らの訴訟提起及び追行の動機と能力等を総合的に勘案してその有無を判断すべきであり、また、合わせて行政処分の違法性の程度如何も考慮しなければならない。

この観点からみれば、前記のとおり、伊場遺跡は、我が国でも有数の貴重な学術的・歴史的価値をもつ縄文時代中期から鎌倉時代にかけての複合遺跡であり、かつ、その遺構及び遺品等について、その年代・性質・他の遺跡との関連付け等において現在の科学的水準では未解明の点が多々あるのにもかかわらず、県条例三〇条一項の要件をなんら満たしていないのに県指定史跡の指定の解除をした本件処分は極めて違法性が強い。控訴人らは、伊場遺跡の学術的研究及び保存運動に深く係わり、本件処分により後記のような不利益を被つており、また文化財保護法(以下「文財法」という。)も後記のとおりの諸規定をおいて、学術研究者に指定史跡等に対する法律上の地位を与えている。そして、控訴人らにとつて、本件抗告訴訟のほかには、伊場遺跡を保存するための法律上の救済手段は保障されておらず、また、本件処分後、日本国有鉄道は調査後の同遺跡を埋め戻して現に電車区として使用し、これによつて控訴人らは利益を侵害されており、これを回復する必要があるので紛争の成熟性も満たされている。なお、被控訴人及び浜松市は、本件処分をするに当つて、控訴人らを当事者として諸種の事前の折衝をして来た。

これらの諸事情を彼此総合すると、控訴人らは本件処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有するから、本件訴訟を提起及び追行する原告適格がある。

5控訴人らの伊場遺跡との関係及び本件処分により被つている不利益は、次のとおりである。

(一) 控訴人菊地は、「伊場遺跡を守る会」の事務局長として、同遺跡の学術的価値・評価について国民への普及・啓蒙を計り、全国的な保存運動に専心し、かつ、浜松市教育委員会が行う同遺跡調査の動向についても再三に亘つて現場を見聞するなどして絶えず関心を払つているものであるが、特に西部地区の大溝内から発見された木簡(人名、地名、呪符木簡など)について研究し、右大溝はその形状、出土品、杭などの遺品等からみて、古墳時代に掘削された人工の運河であると解し、同遺跡は大和朝廷又は伊勢神宮の支配の及んだ屯倉、律令時代以後の地方官衙、駅家、津の複合施設であるとの見解を採つているところ、浜松市教育委員会が委嘱した同遺跡調査団により、右大溝は自然水流であるとの右と異なる見解も公表されており、木簡・土器等の出土品などの年代的な確定についても未解明な点が多分にあり、これらの諸種の問題については今後の科学技術の発展をまつて学問的研究によつて解明されなければならない。しかるに、本件指定の解除処分により同遺跡が破壊されることになれば、これらの諸問題が解明されないまま放置されるうえ、同控訴人個人の古代国家の成立、大和朝廷の東国支配、地方行政の実態と民衆の祭祀制度の係りの変遷などについての学問的研究も遮断される。したがつて、同控訴人にとつて、大溝その他の同遺跡の遺構は遺品とともに、原状において保存しておく必要がある。

(二) 控訴人芝田は、読売新聞社浜松支局長在職当時から考古学に関心を持つていたが、昭和四一年同社を退職して以来、考古学研究を続けながら、遠江考古学研究会(以下「遠考研」という。)の代表の地位にあり、前記の浜松市教育委員会の第四、五次遺跡調査に顧問として調査活動に携り、かつ、全国的な同遺跡保存運動に専心しているものであるが、特に弥生時代の祭祀用具である銅鐸について研究し、静岡県引佐郡細江町で出土した銅鐸の各埋納位置の方位(北西から南東に向けての戊軸線)が伊場遺跡東部地区で発見されたよろい状の短甲状木製品二個(左半分の胸当、右半分の背当)の各埋納位置の方位と一致するところから、これは古代中国の四方門思想の影響を受けたものと考え、その思想と我が国古代の農耕生活との係わり合いについて関心を持つている。同控訴人は同遺跡東部地区は祭祀的な遺跡であると解し、南西から北東に向かつての己軸にも未発見の短甲状木製品が埋納されているのではないかと考え、また、西部地区の大溝から発見された百怪呪符木簡についても、東国への道教思想の伝来との関連で、研究を進めているものである。しかるに、本件指定の解除処分により同遺跡が破壊されることになれば同控訴人の今後の研究は遮断されることになるので、同控訴人にとつて伊場遺跡は、遺構、遺品ともに原状において保存しておく必要がある。

(三) 控訴人山村は、静岡県立島田高等学校在学中から考古学に興味を持ち、家業の農業を続けながら、その半生を遺跡調査に捧げ、遠考研の代表委員の地位にある地域研究者であり、郷土の遺跡・古墳・古窯跡などの発掘及び分布調査を系統的に行つて来た。そして、同控訴人は、伊場遺跡の調査及び保存運動に積極的に携り、前記の浜松市教育委員会の第四、五次の同遺跡調査にも主任発掘調査員として参加した。特に、同控訴人の研究の主要テーマは、古墳時代から平安時代にかけての須恵器、陶器、陶質土器を焼成した古窯等の窯業生産構造の解明とそれに係わる須恵器等の地域的な需要供給関係の解明等である。遠江地方には数多くの須恵器などの古窯跡が発掘されているが、須恵器等の形態及び窯の構造は年代を経るに従つて変化している。伊場遺跡の東部及び西部地区からは古墳時代から平安時代にかけての須恵器などの土器が大量に出土しており、遠江地方の一大供給先であつたと認められる。そして、大溝は地層の層序が比較的整然としており、須恵器等の編年的位置付けができる唯一の包含層であるが、その層位的分析は現在の科学技術水準による制約を免れることができず、浜松市教育委員会の同遺跡の調査結果報告においても、大溝の層位の境界分析に不明確な点があり、その明確化のためには今後の科学技術の発展に俟つところが大きい。同遺跡と須恵器等生産地との経済的な関連についても未解明であり、本件指定の解除処分により同遺跡が破壊されることになれば、同控訴人の今後の研究は遮断されることになるので、同控訴人にとつて伊場遺跡は、遺構、遺品ともに原状において保存しておく必要がある。

(四) 控訴人柴田は、国学院大学文学部史学科の卒業論文に伊場遺跡第一次調査資料を利用して「いわゆる櫛描文土器の拡散についての研究」を作成して以来、同遺跡に関心を持ち、昭和四三年同大学卒業後は一時磐田市教育委員会社会教育課に勤務し埋蔵文化財の調査研究をし、退職後は家業の農業に従事しながら、滋賀県、袋井市、島田市等の委嘱を受けて全国各地の遺跡等の発掘調査を行つている地域研究者である。わけても、同控訴人は、古代の墓跡の変遷等の研究に専念しているが、弥生時代の周溝墓は原則的には古代農業社会における世帯共同体の家長及びその世帯員の墳墓と考えられており、伊場遺跡の東部地区において方形周溝墓らしき遺構が発掘されているけれども、それが方形周溝墓であるかどうか、また、その年代、周辺の農業集落との関連付け(特に、同遺跡の東部地区については祭祀性の強い集落とするいわゆる聖域説が有力である。)などについて未解明の点が多く、将来の研究に俟つところが大きいが、本件指定の解除処分により同遺跡が破壊されることになれば、同控訴人の今後の研究は遮断されることになるので、同控訴人にとつて伊場遺跡は、遺構、遺品ともに原状において保存しておく必要がある。

6文財法三条は、「政府及び地方公共団体は、文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもつてこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。」と、四条二項は、「文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存するとともに、できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない。」と、それぞれ規定している。そして、

(一) 埋蔵文化財について、同法五七条一項本文は、「土地に埋蔵されている文化財(以下「埋蔵文化財」という。)について、その調査のため土地を発掘しようとする者は、文部省令の定める事項を記載した書面をもつて、発掘に着手しようとする日の三十日前までに文化庁長官に届け出なければならない。」と、同条二項は、「埋蔵文化財の保護上特に必要があると認めるときは、文化庁長官は、前項の届出に係る発掘に関し必要な事項及び報告書の提出を指示し、又はその発掘の禁止、停止若しくは中止を命ずることができる。」と規定し、八五条一項六号は、「五七条二項の規定による発掘の禁止又は中止命令」を行おうとするときは、「関係者又はその代理人の出頭を求めて、公開による聴聞を行わなければならない。」と規定しているが、右の「その調査のため土地を発掘しようとする者」は、考古学等の学術研究者であることが常であり、その者は八五条一項の「関係者」に該当し、右の学術研究者に対し聴聞手続を経て、発掘の禁止又は中止命令の行政処分がなされたときは、当該学術研究者は右処分に対し取消訴訟等の抗告訴訟を提起することができる。

(二) また、同法八〇条一項本文は、「史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。」と、八五条の三第一項は、その許可又は不許可の「処分についての異議申立てがあつたときは、当該異議申立てを却下する場合を除き、文化庁長官は異議申立てを受理した日から三十日以内に、公開による聴聞を開始しなければならない。」と、そして八五条の八は、その異議申立てを経たのち、右許可又は不許可処分についてその取消請求訴訟を提起することができると、それぞれ規定しているが、右の「その現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとする」者は前同様に学術研究者であることが常であり、また、八〇条七項の原状回復の命令を行おうとするときは、文化庁長官は前記の行為者を関係者として出頭を求めて公開の聴聞を行わなければならず、右原状回復命令に対しては、前記行為者は抗告訴訟を提起することができる。

(三) 次に、同法八三条は、同条一項各号の一に該当する場合は、文化庁長官は史跡名勝天然記念物に関する状況を確認するために、その調査に当る者を定め、その所在する土地等の実地調査及び土地の発掘、障害物の除却その他調査のため必要な措置をさせることができる旨を、八五条一項五号は、「第八十三条第一項の規定による立入調査又は調査のため必要な措置の施行」を「行おうとするときは、関係者又はその代理人の出頭を求めて、公開による聴聞を行わなければならない。」と、それぞれ規定しているが、右の「調査に当る者」は考古学等の専門知識を有する学術研究者であることが常であり、同人は「関係者」として聴聞において、自己のために意見を述べ、又は釈明し、かつ、証拠を提出することができる。

(四) 同法五三条一項は、「重要文化財の所有者及び管理団体以外の者がその主催する展覧会その他の催しにおいて重要文化財を公衆の観覧に供しようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。」と規定しており、学術研究者も右の公開の申立をなし得、その許可の取消処分については処分がなされる前に、八五条の聴聞手続に参与する機会が保障され、かつ、右処分について法律上の争訟を提起することができる。

7思うに、文化財を享有する権利は、生存権の文化的側面たる社会的基本権として国民のひとしく有する権利であり、しかも、考古学等の学術研究者は、文財法の諸規定により文化庁長官等が行う行政処分に関与する法律上の地位を保障されている。ところが、史跡指定の解除処分は文化財である史跡を地上から喪失させる行為であつて、学術研究者の活用の利益、研究生活の基本的手段を根本から奪うものである。前記の諸規定上保障されている法律上の地位に鑑みれば、伊場遺跡を研究生活の基本的手段とし、考古学研究が生活の大部分を占めている控訴人らは、自己それぞれの地位に基づき、また、国民から文化財の保護を信託された者として、国民を代表する資格において、本件指定の解除処分の取消しを求める訴の利益を有することは明らかである。同法七一条四項、六九条三項が史跡名勝天然記念物について、二九条二項が国宝又は重要文化財について、指定の解除は官報に告示しなければならない旨規定しているのは、右解除処分について学術研究者に法律上の争訟権を確保させるための制度的な保障であることをも思いあわせるべきである。

8なお、控訴人らが訴の利益を喪失している旨の被控訴人の主張は争う。文化財としての伊場遺跡はなお存在しており、現在同遺跡は埋め戻されているものの、なお原状回復は客観的・物理的に可能であり、本件指定の解除処分を取り消すことの意義は失われてはいない。

二  被控訴人

1本案前の主張

(一) 浜松市教育委員会が行つた伊場遺跡の発掘調査についての調査報告書や出土品を利用して、「伊場木簡の研究」(甲第一三五号証)に、控訴人菊地は「伊場と津」、控訴人芝田は「百怪呪符」と題する各論文を執筆掲載しているが、このような研究は前記の諸資料によつて行うことができるし、静岡県指定史跡地域は伊場遺跡全体のごく一部すなわち二パーセント強であり、同地域は既に基盤部分の発掘までを完了し、現在は埋め戻されて鉄道用地として使用されていることなどの事情を考慮すると、実質的に控訴人らが本件処分の取消しを求める利益は失われている。

(二) 仮に、控訴人らが本件処分の取消しを求めるにつき訴の利益があるとしても、同県指定史跡の指定の解除は被控訴人の裁量に基づく行政処分であつて、右処分が違法であるとして取り消されるためには、行政事件訴訟法三〇条により裁量権の逸脱又はその濫用があることを必要とするが、本件処分は、それに至つた事実関係等に徴すれば、そのような場合に該当しないことは明らかであるから、控訴人らの請求は理由がない。

2当審における控訴人らの主張に対する答弁

右の控訴人らの主張1の事実は認める。2のうち、本件指定の解除の理由が国鉄浜松駅の高架化に伴う同駅前再開発・整備のために伊場遺跡に国鉄の電車区を移転するためであることは認めるが、その余の主張は争う。3のうち、同遺跡について、現在までに一三次の調査がなされ、本件指定の解除時において第七次の調査が行われていたこと、同遺跡の東部地区には三条の環濠が存在し、その濠内からは短甲状木製品二点をはじめ須恵器など数百個に及ぶ土器が発見され、その周辺には多数の竪穴式住居跡とピット群が検出され、また弥生時代の方形周溝墓が発掘されたこと、同遺跡の西部地区からは大溝が検出され、その両岸には掘立式住居跡があり、大溝内から多数の木簡や土器が発見されたことは認めるが、同遺跡が東部・西部地区を合わせて国の史跡指定に値いするほどの学術的・歴史的価値があること及び被控訴人の行つた本件指定の解除が暴挙である旨の主張は争う。4の主張中、本件処分後、日本国有鉄道が調査後の同遺跡を埋め戻して現に電車区として使用していること、被控訴人及び浜松市の担当者が、控訴人らその他の歴史・考古学者に対し、本件指定の解除について、その経過・理由などを説明しその諒承を求めて来たことは認めるけれども、その余を争う。右措置は反対者に対してしばしば行われることであつて、被控訴人は控訴人らを当事者として認識し、また、取扱つたものではない。5の(一)ないし(四)のうち、控訴人菊地が「伊場遺跡を守る会」の事務局長であること、控訴人芝田がかつて読売新聞社浜松支局長であつたこと、遠考研の代表であり、浜松市教育委員会が行つた伊場遺跡の第四、五次調査に顧問として調査活動に従事したこと、控訴人山村が遠考研の代表委員であり、前記の同遺跡の第四、五次調査に主任発掘調査員として参加したこと、控訴人柴田がかつて磐田市教育委員会社会教育課に勤務していたことは認めるが、本件処分により右控訴人らの今後の研究が遮断されることになるため、同控訴人らにとつて伊場遺跡は、遺構・遺品ともに原状において保存しておく必要がある旨の主張は争い、その余の事実は不知。6、7の主張は争う。

(当審で取調べた証拠)〈省略〉

理由

本件における第一の争点は、控訴人らが本件史跡指定解除処分の取消しを求めるについて訴の利益を有するかどうかであるが、当裁判所も、審理の結果、控訴人らは本件処分の取消しを求めるにつき行政事件訴訟法九条所定の法律上の利益を有する者とは認めがたく、本件処分取消請求訴訟を提起する原告適格がないから、本件訴えはいずれも却下されるべきものと判断する。その理由は、当審における控訴人らの主張についての判断をあわせ、次のとおり付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(当審における控訴人らの主張に対する判断)

一当審における控訴人らの主張1の事実及び2のうち、本件史跡指定の解除は、国鉄浜松駅の高架化に伴う同駅前再開発・整備のために伊場遺跡に国鉄の電車区を移転することを理由とするものであることは、当事者間に争いがない。

二伊場遺跡については、現在までに、浜松市教育委員会による一三次に及ぶ遺跡調査が行われ、本件処分時には第七次の同調査が行われていたこと、同遺跡中の東部地区(静岡県の史跡指定地を含む。)には三条の環濠が存在し、その濠内からは漆塗り短甲状木製品二点をはじめ須恵器などの数百個に及ぶ土器群が発見され、環濠の内側においても土器片や石器等の遺物が発見され、弥生時代後期の多数のピット群(穀物貯蔵用)と土壙群が砂丘上に検出され、また弥生時代の方形周溝墓も発掘され、砂丘頂部には十数個分の竪穴式住居跡が検出されたこと、右の短甲状木製品は我が国初例であり、同遺跡のもつ弥生時代後期の性格づけに重要な手がかりを残したこと、東部地区に隣接する西部地区からは、貴重な遺構が多数発見され、なかでも西部地区を東西に分断する古墳時代後期の幅一三メートルに及ぶ大溝は、古代国家成立前夜の社会情勢を考えさせる格好な資料となること、その大溝の両岸には掘立式住居跡があり、溝内から多数の木簡や土器が発見され、また、従来、中世に始まると考えられていた数点の絵馬が出土したことは当事者間に争いがない。そして、控訴人菊地が「伊場遺跡を守る会」の事務局長であり、控訴人芝田がかつて読売新聞社浜松支局長であり、現在遠考研の代表であつて、浜松市教育委員会が行つた伊場遺跡の第四、五次調査に顧問として調査活動に従事したこと、控訴人山村が遠考研の代表委員であり、前記の同遺跡の第四、五次調査に主任発掘調査員として参加したこと、控訴人柴田がかつて磐田市教育委員会社会教育課に勤務していたことは、当事者間に争いがなく〈証拠〉によれば、控訴人菊地、同芝田、同山村、同柴田はいずれも、その主張の歴史学又は考古学を研究し、伊場遺跡についてその主張のような学術的見解をもつていること、控訴人大木は環境分折学者及び浜松市の住民の立場において、同遺跡の保存・継承運動をし、国鉄浜松駅の高架化と同遺跡の保存とは両立しうるから、本件史跡指定の解除はその必要がないのではないかと考え、住民に対して右考えを提唱していることが認められる。

三そこで、右のような事実を考慮しつつ、控訴人らが本件処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有するかどうかについて判断する。先ず、行政事件訴訟法九条にいわゆる行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とはいかなる者をいうかについて考えるに、当裁判所も、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消し等によつてこれを回復すべき法律上の利益を有する者に限られるべきであり、右の法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、それは、行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものと判断する。この観点に立つてみるに、先ず、控訴人らが静岡県指定史跡に指定されていた原判決添付物件目録一ないし一〇記載の土地について所有権その他の権利を有することの主張立証はなく、また、控訴人らは本件処分の相手方たる被処分者にもあたるわけでもない。そして、文財法又は同法九八条二項の規定に基づいて制定された県条例をみても、控訴人らのような指定史跡についての学術研究者又は史跡指定の解除に反対する住民に対して右解除処分につき取消訴訟その他の不服申立の権利を付与する規定は存在しない。してみれば、控訴人らは本件処分により自己の権利を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがある者ということのできないことが明らかである。

そこで、次に、控訴人らが本件処分により法律上保護された利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者にあたるかどうかについて考えるに、その判断のためには、控訴人らの本件伊場遺跡との前記のようなかかわりあいを文財法及び県条例の規定に照らして考慮しなければならない。本件処分は、県条例三〇条一項の「指定史跡名勝天然記念物が指定史跡名勝天然記念物としての価値を失つた場合その他特殊の理由があるときは、教育委員会は、指定史跡名勝天然記念物の指定を解除することができる。」との規定に基づいてなされたことは、当事者間に争いがない。そして、右県条例の根拠規定である文財法によれば、同法は文化財を保存し、且つその活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的として制定されたものであり(同法一条)、控訴人ら主張のとおりその三条において、政府及び地方公共団体が文化財の意義を認識し、これを保存するとともに、同法の趣旨の徹底に努めるべき任務を負うことを定め、また、その四条において、一般国民及び文化財の所有者その他の関係者の文化財についての心構えを規定していることが明らかである。さらに同法及び県条例の各規定を検討するに、右両者は被控訴人又は文化庁長官に対し、それぞれの指定にかかる史跡の所有者又は管理団体等に対するその保存・管理についての指示監督権限(法三〇条、条例三四条、六条)、管理方法の改善その他の管理に関する必要な措置及び復旧その他滅失、き損防止のために必要な措置についての勧告及び命令権限(法七一条の二、七六条、七七条、八一条、条例三四条、一〇条、一一条、一三条)、所定の場合の管理団体の指定権限(法七一条の二)、現状変更等に対する許可及び監督処分権限(法八〇条、八二条、条例三三条、一二条、三四条、一六条)、自ら復旧等の措置をする権限(法七八条)、重要文化財等の公開についての勧告・命令権限(法四七条の二、四八条、五一条、五三条、条例一四条)等の行政権限を付与し、その反面、史跡の所有者又は管理団体等に対し、被控訴人又は文化庁長官の指示・命令に従う義務(法三一条、条例三四条、六条)、文化庁長官が自ら行う復旧その他滅失等の防止の措置を受忍する義務(法七八条)、各種の届出義務などを課し(法三二条、三三条、七二条、条例三二条、三四条、七条、八条)、史跡の保存・管理・処分について所有権その他の権利・権原の行使の自由を制限し(法三一条、七二条、八〇条、条例三三条、一二条、三四条、六条)、合わせて静岡県又は国庫において、史跡の管理及び修理に要する経費の全部又は一部を補助金の交付その他の方法により負担することを定め(法三五条、七六条、三六条二項、七七条、三七条三項、条例三四条、一〇条、一一条)、被控訴人又は文化庁長官のこれら各規定の運用による行政権限の適正な行使によつて、史跡の保存及び活用を計り、同県民及びひいては国民の文化的向上に資することなどを期している。しかしながら、県条例及び文財法を通じて史跡の保存・活用についての、県民及び国民の個人的利益、また、学術的研究者の個人的利益を保護することを目的とする規定は存在しないのであり、県民及び国民ひいては学術研究者が史跡の保存・活用により受ける利益は、県条例及び文財法の趣旨、内容、構造等からみて、被控訴人又は文化庁長官の右各法規の適正な運用によつて実現された公益保護を通じて、その結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益であつて、本来私人等権利主体の個人的な利益を保護することを目的とする法規により保障される法律上保護された利益とはいいがたい。また、学術研究者の史跡の保存・活用について学問研究上受ける利益も、被控訴人又は文化庁長官による右の公益保護を通じ県民及び国民一般が共通してもつに至る抽象的、平均的、一般的な利益を超えて、法規上、特段に保護されているとはいえず、右の公益に完全に包摂され、公益の保護を通じてその結果として保護されるべき性質のものにすぎないと解される。

そして、前記文財法三条も、文化財の保存についての政府及び地方公共団体の任務を一般的・綱領的な指針として宣言した訓示規定にすぎず、また、同法四条二項も文化財の保存及び公開について、その所有者その他の関係者の心構えを一般的・抽象的に定めた訓示規定であつて、国民ひいては学術研究者に具体的・個別的な権利を付与したものではない。

そうだとすると、県指定史跡の指定の解除を「指定史跡名勝天然記念物としての価値を失つた場合その他特殊の理由があるとき」に限定した県条例三〇条一項により被控訴人の行政権の行使に課せられた制約は、史跡等の保存・活用を計ることを目的とする公益保護のために課せられた制約であつて県民ひいては控訴人ら学術研究者及び史跡指定の解除に反対する者の個人的利益を保護することを目的としたものではないというべきである。

したがつて、本件処分により控訴人らが「法律上保護された利益」を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあるとは認められない。もつとも、被控訴人の担当者が控訴人らその他の歴史・考古学者に対し、本件指定の解除について、その経過・理由などを説明し事前にその諒承を求めて来たことは、被控訴人の自認するところであるが、弁論の全趣旨によれば、それは被控訴人が文化財に関する行政をできるかぎり紛争を防止して円滑に行うためにした事実上の折衝にすぎず、控訴人らを本件処分の当事者として取扱つたものではないことが認められるので、右事実をもつて前記の結論を左右することはできない。

四控訴人らは、前記「法律上の利益」とは法律上保護された利益のみならず、法律上保護に値いする利益をいうものと解すべきであり、本件においてその有無を判断するにあたつては、県条例・文財法の規定のみならず、史跡指定により控訴人らが享受していた利益の特質、その反面指定解除により生ずべき不利益の特質、程度、取消訴訟以外の救済手段の有無、紛争の成熟性、控訴人らの訴訟提起及び追行の動機、能力等を総合的に勘案し、行政処分の違法性の強度もあわせて考慮すべきものであるとし、本件処分により伊場遺跡が指定を解除されて破壊されることになれば、控訴人菊地、同芝田、同山村及び同柴田がこれまで同遺跡について行つてきた学術的研究に未解決な点が多々あるのにもかかわらず、今後の研究を遮断され、また控訴人大木にあつても同遺跡の保存継承運動を遮断されることになるから、控訴人らにとつて、同史跡は遺構、遺品とともに原状において保存しておく必要があり、控訴人らは本件史跡指定解除処分の取消しを求めるについて法律上保護に値いする利益を有する者にあたると主張する。しかし、右「法律上の利益」に法律上保護に値いする利益が含まれるものと解することは、行政事件訴訟法九条の規定の文理上困難であるのみならず、具体的な事案について法律上保護に値いする利益を有するかどうかを判断するにあたり、その基準をどこに求めるべきかその判断者の恣意に流れることを避けがたく、かくては法的安定性が失なわれるおそれがあるというべきであるから、控訴人らの主張は採用するによしない。

五なお、控訴人らは、文化財保護に関し学術研究者が関係人として関与し行政庁の処分に対して抗告訴訟を提起しうる場合を掲げ、あるいは史跡指定解除についての官報による告示の制度の存在をあげて、本件においても控訴人らに抗告訴訟提起の権利を認めるべきであると主張するから、以下右主張について判断する。

まず、文財法五七条一項の、埋蔵文化財について「その調査のため土地を発掘しようとする者」は、控訴人ら主張のとおり、多くの場合は考古学等の学術研究者であるにせよ、同条二項の発掘の禁止、停止又は中止命令の処分については、右処分の相手方にあたるから、右処分により現に埋蔵文化財を発掘し又は発掘しようとする自己の具体的・個別的な権利・利益を侵害され若しくは必然的に侵害されるおそれがあるものというべく、したがつて、その取消等によつてこれを回復すべき法律上の利益を有する者ということができ、そうとすればこれらの者は右処分に対して抗告訴訟を提起しうることになるが、そうであるからといつて単なる学術研究者にすぎない控訴人らをこれらの者と同列の地位にあるものと評価して抗告訴訟を提起しうるものとすることはできない。

なお、埋蔵文化財の発掘又は遺跡の発見の届出等に関する規則(昭和二九年文化財保護委員会規則第五号)一条一項六号の「発掘担当者」に多くの場合考古学等の学術研究者がなるとしても、右発掘担当者は同法五七条一項の「発掘しようとする者」の補助者的な地位を有するにとどまるといえるので、右事実をもつてしても控訴人らの法律上の利益を根拠付けることはできない。

次に、同法八〇条一項の、史跡等に関し「その現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとする」者又は同条七項により現状変更行為について原状回復命令を受けた者は、その者が考古学等の学術研究者であるにせよ、文化庁長官が行つた不許可処分、又は条件として必要な指示が付された許可処分については、前記の発掘者と同様に、右不許可処分又は条件を付した許可処分の相手方であつて、これら処分により現に史跡等に関して現状を変更しようとする自己の具体的・個別的な権利・利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消し等によつてこれを回復すべき法律上の利益を有する者であるが、控訴人らをこれらの者と同列の地位にあるものと評価することはできないことは、前記説示したところと同様である。

次に、同法八三条一項の史跡等の状況を確認するため「調査に当る者」は、多くの場合は控訴人ら主張のような学術研究者であることが多いであろうが、条文上明らかなように、これらの者は、同項各号所定の揚合に文化庁長官の選任によりその指示監督のもとに、史跡等の状況を確認するためにその所在地又は隣接地に立ち入つて史跡等の現状について実地調査等を行うものであつて、右の実地調査又は調査のため必要な措置の施行について、独立した固有の個人的権利又は利益を有する者とはいえないから、はたして八五条一項所定の「関係者」といえるかどうかは極めて疑問であり、いずれにしてもこれらの者が右実地調査等の処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者とは認められない。

さらに、同法五三条一項の「重要文化財の所有者及び管理団体以外の者で、その主催する展覧会その他の催しにおいて重要文化財を公衆の観覧に供しようとする」者についてみるに、これらの者が学術研究者である場合もあろうが、これらの者は文化庁長官が行つた不許可処分又は条件付許可処分、公開の停止又は許可の取消処分について、処分の相手方にあたるから、控訴人らをこれらの者と同列の地位にあるものと評価することができないことは、前記説示したところと同様である。

史跡等の指定の解除について官報で告示がなされることと定められていることは、控訴人ら主張のとおりであるが、その趣旨は、右の指定の解除は公益にかかわるものであつて一般国民に周知させる必要があることを考慮したものと認められ、右解除処分について学術研究者に法律上の争訟権を確保させるための制度的な保障をしたものとは解しがたい。

よつて、控訴人らの前記主張はいずれも理由がなく、採用することはできない。

六最後に、控訴人らは住民あるいは一般国民から文化財の保護を信託された者として国民を代表する資格において本件史跡指定解除処分の取消を求める訴訟を提起しうるとの主張について判断するに、成立に争いのない甲第七号証(東京都立大学助教授東京大学法学博士兼子仁の「文化財保護行政に関する国民の訴の利益」についての鑑定書)によれば、真摯な団体活動によつて当該の共通的生活利益の主張、実現を目的とする相当規模の社会的活動を行つてきた者に対しては処分の取消を求めるについて国民、住民のための代表的出訴資格を認めるべきであるとの見解が示されており、控訴人らが本件伊場遺跡の保存・研究について真摯な活動を続けていることは、前述したところにより明らかであり、政府、地方公共団体においても、また一般国民としても、文財法の趣旨に従い国民的財産である文化財の保存に努めその文化的活用を図るべきことはいうまでもないところであるが、右のような意味においての代表的出訴資格を認めた規定の存在しない現行法制のもとにおいては、控訴人らに住民又は国民を代表して本件史跡指定解除処分の取消しを求める訴を提起する資格を認めることは、困難といわざるを得ず、控訴人らの主張は採用することができない。

七叙上の次第であつて、控訴人らは本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは認められないから、本件訴訟を提起する原告適格がなく、本件訴えはいずれも不適法として却下されるべきであり、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(森綱郎 藤原康志 片岡安夫)

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